屏風に対する愛は一滴一滴と積み重なってきたものだ。いや、一字一句が積み重なってきたものと言うべきか。 台中市中山路にある実家は、1階は店で2階が住居だった。わずか10ｍばかりの幅の横町は、日本統治時代から1980年代にかけて市の中心繁華街だった。子どもの頃暮らしていた部屋には畳と障子があったが、古いタンス以外の主な家具といえば、父が若い頃に大工を真似て作った人造大理石の低いテーブルぐらい。家族みんなで食事をしたり、子どもたちがゲームをしたり、祖母が四色牌をしたりするのもそのテーブルだった。つまり、大人になるまで屏風など目にしたこともなかった。 愛読書の『紅楼夢』は、清代貴族の美学の集大成であり、そこに登場する屏風も当然、非常に貴重なものである。たとえば登場人物の一人賈蓉は賓客をもてなすために特別に王煕鳳からガラス製のオンドル用屏風を借りた。今でこそガラス製品はありふれたものだが、清の時代には皇室や貴族だけが持つことのできる高価な貢ぎ物だった。本来は風よけであった屏風はさまざまに発展し、清代には屏風絵のほかにも、木彫、ほうろう、象牙細工、蘇州刺繍、堆朱などの工芸と組み合わされた。比類のない美しさの象嵌の屏風は、部屋じゅうの家具とあいまって、その家の偉容を示した。 杭州の胡雪巌旧居や数々の邸宅で、また言うまでもなく北京の故宮において、精巧に彫られた清朝の屏風を目にした。 もう一冊、何度読み返しても飽きないのが『源氏物語』だ。これは唐文化の大きな影響を受けた平安朝の物語である。繊細な表装を施された絵屏風は、ほとんど家具のない部屋の中に置かれ、そこで織りなされる美しくも悲しい物語を見届ける。屏風を隔てて愛を語らう男女。屏風によって物語――禁断の愛までも――が紡がれていく。 唐屏風の形式は日本で現在まで受け継がれている。直に座る板間や畳の部屋では「屏風は移動する壁画であり、畳めば小さく、広げれば6倍にもなる」ものだ。 昨年5月、京都へ画材や表具を仕入れに行った際、御苑（旧皇宮）を見学に行くことにした私は、紆余曲折を経てようやく唐代の空間美学を留めた建築を目にすることができた。頑固者を自認する私だが、唐代伝奇を元にした侯孝賢監督の『黒衣の刺客』がカンヌ映画祭で高い評価を受けたことを知り、同じ道を行く者がいると実感した。 映画の封切りが待ちきれず、事前に朱天文と許芳宜の『黒衣の刺客』映画フォーラムに参加し、また多くの映画評も読んだ。実を言えば映画を見終えた時、監督の表現しようとしているものがすぐには理解できなかった。ただ最も心に響いたのは、耽美的な映像だった。詩画のような山水、風に揺れる金をあしらった蚊帳、そして屏風である。主議事庁の豪奢な屏風であれ、寝室の花と枝の模様の屏風であれ、どれも自信にあふれた大らかな唐文化を色濃く表していた。 谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』には、日本の金襖と金屏風が描かれている。 ここに描かれているのは電灯が普及する以前の暗い伝統建築であり、ランプをつけて屏風を眺めた時の美しさである。
屏風の美をいかに再現するか。長年の屏風への愛は、現代水墨画に取り組み始めて実を結んだ。 まず、一枚の抽象画から始めることにした。一枚が二枚に、二枚が四枚となり、想像をかきたてる詩境を表現した「花漾年華」四連作が完成した。 「鳥の声と花にあふれた春の山 それから、国立台湾美術館の3階で日本画家、郷原古統が100年前に創作した「庭」四曲屏風を見た。金具をはめ込んだ縁も背面の絹布も精緻で落ち着いており、ぼんやりとした絵をぐっと際立たせていた。複雑な清朝屏風と比べ、このような素朴な日本式屏風により魅力を感じた。 構想から実現まで、丸半年を費やした。そもそも台湾で今、紙を重ねて木枠を覆う日本式屏風の製作は、天にのぼるより難しいことなのだ。木工師がいかに画家の屏風への思いを汲んでこの困難極まる仕事をやり遂げたかは、詳しくは述べない。複雑な手順を経て、木工師の手によって「花漾年華四曲屏風」が本当に真っ直ぐに立った時、文字の中だけのものだった屏風は、ろうそくの火の前の神秘的な金箔のように、いにしえから続く暗闇を越え、一心に美を追い求める心に届いた。それは手に触れられる作品となった。一面に広がる春の花。感動で胸がいっぱいになった。
|
.JPG)
.JPG)
.JPG)
.JPG)
.JPG)
.JPG)
.JPG)
.JPG)
|
|
分享您的讀文感想 |